☆それは、ある朝の出来事である。私はいつも朝の7時に起床していたが、パパさんが毎朝私を起こしてくれていたのである。
ところがその日の前日、パパさんは友人の家で徹夜ブラックジャックをするとかで翌日まで不在にしており、代わりにママさんが起こしてくれることになっていた。
それが不幸の始まりだった。
何とその日の朝、ママさんは寝過ごしてしまったのである。
ママさんが寝過ごすということは、当然に私も寝過ごし、更には私のために昼御飯のランチを作ってくれるニコルも寝過ごし、そして他の3人の子供達も寝過ごすという結果になるということでもある。
結局、皆が起きたのは8時過ぎであった。
さあ、たいへんである!
今日はいつものモラッシュ婦人ではなく、ママさんが私を駅まで送ることにもなっていたのである。
しかもママさんは、他の4人の子供達もそれぞれの学校へ送ってゆかねばならない。
家の中は、文字通り蜂の巣をつついたかのような状態になり、皆真っ青な顔をして、右に左に、後ろに前に、上に下にの大騒ぎ、必死になって身支度を整えている。
動揺したママさんも、自分自身をも含め、何を指示し何をさせれば良いか判断できず、ただ「アイヤイヤーイッ!」っと叫ぶのみであった。
やっとのことで、全員がママさんの運転する4WDに吸い込まれるが如く乗り込んだのは、8時30分ぐらいになった頃であった。
だが私は、それからタップリ恐怖の時間を味わうのである。
何故ならば、ママさんは車を運転しながらパンティーストッキングを履き、しかもミラー片手に化粧をしたり、爪にマニキュアを施しだしたのである。
助手席に乗っていた私は、目のやり場に困るとともに、ママさんの神経を疑った。
「おばはん、危ないがな! サーカスやってんのと違いまっせ!」
私は、笑顔を保持しつつも心の中で叫んだ。
車はフリーウエー(Free way ; 日本の自動車道や高速道路のようなもの)を走っているのである。
そのために車は蛇行を続け、そのたびにママさんは「アイヤイヤーイッ!」と叫んではハンドルを切り直すのである。
生きた心地がしない、とはまさにこのことであった。
新聞などでよく日本人留学生がアメリカで交通事故を起こして死亡するという記事を目にしたが、今度はいよいよ私の番かと観念してしまった。
思えば短い波乱に満ちた半生であった。
ママさんは、あいかわらず「アイヤイヤーイッ!」と身支度をしながらの運転に夢中である。
しかし何とか、奇跡的にも車は無事に目的地に着いた。
車を降りた私の手には汗が握られていた・・・・・。
To be continued!